敷地は、羽田空港近くの首都高速道路の高架下、二つの道路に接する角地であ る。周辺には統一感の無い町並みが連続する。
こうした良好ではない環境にオフィスを建てることが求められた。
全体は、静寂性を求めて、閉鎖的な構成としている。矩形の建物に、二箇所切れ込みを入れ、建物内部に光と風を導いている。有効な内部空間を確保するために、斜線制限を考慮に入れながら、三階部分の天井高が確保できる限界まで建物を西側隣地に寄せ、東に向かって天井高が高くなるよう建物の屋根を傾斜させている。
単に機能性を求めるだけでなく、空間が豊かになるように、内外のスペースを配置させている。
敷地の北奥には駐車スペースと配送のためのスペースを配している。道路側には植栽を施し、周囲に対して豊かな緑のスペースを供与している。
菓子問屋業を営むクライアントのため、倉庫と配送のためのスペースが必要となる。一階には倉庫と自社のためのオフィスが、二階には倉庫が配され、三階にはテナントのためのオフィスが配される。

一階オフィスではペーパーワークが主流となるため明るい執務空間としている。
三階オフィスでは、特にインキュベーションオフィスにすることが求められた。有望な若い企業を支援・育成するためのものであ る。感度の高い人々が集まることで、新しい思考に自らも刺激を受け、新たなビジネスを展開したいというクライアントの思いから、あ りきたりなオフィスではなく、思考や感性をより活性化させるものが求められた。そのため働く人々の瞬時の発想を具現化できるよう、意見を交換できるスペースが建物内部に散りばめられている。

玄関ロビーは、そこから一直線に伸びる外部階段を通じて三階テラスへと連続する。このテラスを境にオフィスとゲストルームが配されている。こうした断面的に連続するスペースは働く人々のよりいっそうの語らいを促す場を実現させている。小雨の日でも外に出ても、靴底が直接、水溜まりに接しないよう外部階段やテラスの床はステンレスメッシュで覆われている。一階玄関ロビーは二つのスペースに分割可能であ る。セパレートされた静かな打ち合わせ室としても、ロビーを一体として広く使うこともできる。
この建物では通常のオフィスのように、まぶしいほどの光は不要と考えた。建物に導かれる光は控えめにしている。そのため、断熱効果だけでなく、落ち着いた内部空間を演出している。
照明計画も、各自が必要な時、必要な所だけを照らす形式を取る。目先の生産性と効率だけを求めるのではなく、ここで働く人々の感性が自身の内部に向き、新たな発想が生み出される創造の場としてのスペースを求めたからであ る。