計画は敷地のコンテクストを読み取ることから始められた。敷地は特徴的な地形を持っている。地形の形状と異なる自然のエレメント。切り立った崖となだらかな緑の斜面。敷地は、くびれた真ん中部分によって二つに分裂している。この中心部分を通じて二つに分裂したエリアは繋がる。 計画において考えられたのは以下の事項である。 1.ネイチャーの性質による建築の空間の分節。(ネイチャーは建築や空間との関り方を変える。) 2.ネイチャーとアーキテクチャーとの関係。 3.新しく挿入される建築と以前建っていた伝統的な建築群。 4.取り壊される建築群と保存される建築群。 伝統的な建築に関しては、残すべき建物と取り壊すべき建物を明確に分節し、新しく建てる建物との連続を図らなければならない。ここでは、外科的手術を伝統的な建築に施す。すなわち、既存の伝統的建物を二つに切断し、西側の部分を削除する。新しく建てられる建物は残った既存の伝統的建物に覆い被るかたちで配される。 建物は大きく二つに分かれる。上層部のヴォリュームは浮くかたちで下層部のヴォリュームの3.5メートル上に置かれる。構造は一般的なラーメン構造である。 上層部にはプレミアムアパートメントが、下層部には普通のアパートメントが配される。上層部のヴォリュームの側面はスモークガラスルーバーで覆われ、下層部のヴォリュームの側面はメタルルーバーで覆われる。このルーバーを通して内部への通風が可能になる。 南側の崖が太陽光を妨げるため、冬において建物のほとんどの部分が日陰に入ってしまう。そのため、できるだけ光を建物内部に侵入させることが求められた。上層部のヴォリュームにはトップライトと側面のガラスから光を導く。また、二つのヴォリュームの間から、幾つかの垂直のヴォイドを設けることにした。 上層部のヴォリュームの底面は反射性の高いステンレスパネルが貼られる。下層部の屋根部分には水が張られる。上層部のヴリュームにはヴォイドが下から穿たれ、光は水面に反射して下方から内部に侵入する。下層部のヴォリュームにもヴォイドが上から穿たれ、上層部の底面や水面を反射した光が上方から内部に進入する。この二つのヴォリュームの狭間は建物に光と風とを導き、風景を眺める絶好の場所となる。 水面上に、プレミアムアパートメントのテラスが点在する。また、プレミアムアパートメントの建物の上部にもテラスが設けられる。人々はこれらのテラスから、崖、空、周辺の景色を眺めることができるであろう。 建物はヴォリュームにジグザグに切り欠きをいれた形態をしている。下層部の建物は道路境界から9メートルさせている。そのため、人々は、道路から、その切り欠きを通して崖を見ることができる。下層部分のヴォリュームの東側には残存する伝統的建築物へと導かれる水平の大きなヴォイドが穿たれる。その広場はパブリックなスペースとなり、カフェなどが配され、崖と伝統的な建物を眺めながら、人々はくつろぐことができる場となる。また、そこはメインエントランスへの導入となり、プレミアムアパートメント用のエントランスと一般アパートメント用のエントランスが、左右に分かれるかたちで配される。下層部の廊下部分は水平なヴォイドとして、建物を貫通する。この水平のヴォイドは街路と同じ軸線で、街路の広がりと空へと連続する。 建物全体は地上から4メートル上がったところに置かれる。そのため、駐車場は地上から1、5メートル下に配される。その結果、工事費のかかる地下を深く掘ることなく、有効面積を得ることができる。車は建物の西側の芝生広場を切って進入する。地下では駐車場を通して集合施設と文化施設とが連続する。 地上では、14メートルセットバックして4メートル上がる勾配で、傾斜のある芝生広場が道路面のレベルから緩やかに拡がる。その芝生広場は新街道に沿って、旧街道の痕跡を再び蘇らせ、緑の広場として文化施設へと連続していく。 |